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バーチャルオフィス 東京を初めて知る方へ

近年、電車に乗るのが嫌である。 周囲を省みず携帯電話でのべつまくなし喋る若い男、2、3人で床に座り込む女子学生、大股間きで座席を占領する中年サラリーマン、小山のような荷物を抱さんたんえた中年女。
注意する気も失せるような、惨憎たる光景があるからだ。 そんな状況を見かねてか、ポスターや注意書きに「マナーを守って」という言葉が氾濫してきている。
たかが注意書きで状況が変わるとも思えないが・・・。 そもそも、彼らの言う「マナー」自体がなんなのか、よくわからない。
「マナー」という言葉から多くの人が連想するのは、食事の仕方や生活のなかでの立ち居振る舞いということかもしれない。 事実、いわゆる「マナー本」の類は、それらについてことこまかに解説を加え、テクニックを開陳している。
しかし、マナ−とはそんな小手先の技術ではない。 「いかに生きるか」という哲学と緊密に結びついた心の表現。
やさしい笑顔に現れる心の表情。 それがマナーである。
その原点にあるのは「共生」という考え方だ。 むろん、人間同士が共に生きるということだけではない。
この地球上のあらゆる命あるもの、動植物や環境などを含めた自然とも調和して生きるという視点から、共生を考えなければいけない。 しかし、現状はお寒いかぎりだ。

日本の自然の象徴ともいうべき富士山が、世界遺産の指定からもれた。 その理由は登山者のゴミのポイ捨てによって、霊山の美観が著しく損なわれていることにある。
世界の最高峰、エベレストにしても、心あるアルピニストをゴミ拾いのための登山に駆り立てるほどに汚れている。 川や海、森や林もまた、同じである。
言葉では自然との共生の必要性を盛んにけんでん喧伝しながら、実際にはまったく逆行することをやってきたのだから、なんとも悲しく情けないパラドックスというしかない。 その根底にあるのは「感謝」や「想いやり」、あるいは「やさしさ」の喪失である。
人間を生かしてくれている自然に感謝し、やさしく想いやる。 その心がなければ、共生など絵に描いた餅である。
逆にいえば、感謝や想いやり、やさしさの心を持っていれば、格別、共生の道を探らなくても調和のとれた生き方はできるのだ。 人間関係でもこの図式は変わらない。
ことさらに調和ということを考えなくても、いつも他人に感謝の心を持って接し、自己中心的にならずに相手を想いやり、笑顔を絶やさないようにしていれば、人間関係は良好なものとなる。 マニュアル通りの感謝の言葉より、自然と出てくる笑顔のほうが、心に響くというものではないだろうか。
上っ面の技術やテクニックを覚えこんだところで、そんなものは付け焼き刃にすぎない。 例え、ナイフやフォークの使い方がうまくできたからといって、「マナーにはいちおうの心得がある」などとは思わないほうがいい。

目の前にある料理を精魂を傾けてつくってくれたシェフや、おいしく食べるために適切な心くばりをしてくれるサービス係に対する感謝がなければ、マナ−としては上等とはいえない。 冒頭でもいったように、マナーとは心の表現にほかならないからである。
もちろん、技術やテクニックは必要なしとはいわない。 言葉の使い方にしても、所作や振る舞いにしても、他人に不快感を与えるようなものでは困る。
しかし、それだけでは「大人のマナー」にはほど遠い。 根っこに確固たる感謝や想いやり、やさしさの心があってはじめて、マナーは本物うまり、大人としてふさわしいものになるのである。
ビジネスシーンをはじめ、生活のなかで「大人のマナー」が求められる場面をさまざまに想定し、日本のホテルマンとして半世紀これまで私が経験してきたことから「こうすればいい」「こう考えたらいい」と確信する内容を綴った。 一般のマナー本の類とは随分、趣を異にするという印象があるかもしれない。
が、このH流は間違いなく、杓子定規なマナーを超え、大人のマナーを磨く手引書になるという自負は持っている。 存分に活用していただければ幸いである。
「男の顔は履歴書」という言葉があるが、顔だけではない。 頭のてっぺんから足元まで、全身がその人間の表現だし、相対する人間が受け取る印象も、全身から醸し出される雰囲気によってつくられるのである。
その意味で、身だしなみは重要だ。 男の身だしなみのカギは早朝にある。

前夜、しこたま飲んで帰宅するやベッドに倒れ込んで出勤時間ぎりぎりまで眠りこみ、洗顔もそこそこに家を飛び出す。 頭を手でなでつけ、「髭は会社で剃りゃあいいや」というのでは、ビジネスという男の戦場に出陣する心構えとしてまるでなっちゃいない。
シェービングと整髪、手の爪のチェックは身だしなみの原点である。 これは毎朝、必ずやる。
そして、せっかく鏡の前にいるのだから、目の表情のトレーニングもするのがいい。 表情は喜怒哀楽という自分の感情を表現するために不可欠だが、その主役はやはり目だ。
鋭く輝いている目は自信や意欲をうかがわせるが、澱んで光のない目は生きるパワーを感じさせないし、見る者を不快にもする。 さまざまな感情を表現するには、どんな目の動きが効果的かを鏡の前でチェックしよう。
あわせて、口の動かし方、挨拶の仕方なども確認しておくといい。 私は毎朝、これを欠かさないし、1日をフレッシュな気分でスタートさせるために、ちょっとした儀式を行う。
ご先祖様への挨拶である。 仏壇の水を取り替え、お線香をあげてオルゴールを鳴らす。
曲はベートーベンの「第九」である。 手を合わせたら、私の両親の名前、妻の両親の名前を心のなかで呼ぶ。

「今日1日、一所懸命やりますから、見守っていてください」というわけだ。 ワイシャツの袖口や襟の汚れ、スーツの肩のフケなどがあっては話にならない。
ピシッとプレスがきいたワイシャツを着ていても、満員の通勤電車でもまれるうちにヨレヨレになるというのだったら、会社でワイシャツを替えるくらいの配慮であることがいちばんだ。 は欲しい。
スーツのシワも、前日脱いだ後、きちんとハンガーに吊しておけば、翌日には伸びているものである。 私は出張に行くと、脱いだスーツはハンガーにかけてバスルームに吊しておく。
バスルームの湯気によるスチーム効果で布が、翌日はシャキッとなるのだ。 服装でいちばん目立つのがネクタイである。
毎日、ネクタイが同じでは、身だしなみに気を遣っているとは見えない。 随分昔になるが、私は1000円のネクタイを数本ほど買ってきて、オークラの営業マン加入に配ったことがある。
日本を知人で使い回すようにするためだ。 営業マンたちは、1日たりとも同じネクタイをすることがなくなるというわけである。
高価なブランドもののネクタイを大切に使うのも悪いとはいわないが、とっておきは2、3本にとどめ、数を揃えるほうが身だしなみには貢献する。 アルマーニだろうが、ベルサーチだろうが、同じネクタイでは「あれっ、またあのネクタイだよ」としか受けとめられない。
アンブランドの安物でも毎日替えれば、「同じネクタイを見たことない。 おしゃれには相当、気を遣っているんだな」となるのである。
足元も大切だ。 「羊たちの沈黙」という映画のなかにこんなシーンがあった。
いくら高級なスーツを着ていても、足元のおしゃれに手を抜くと、お里が知れるのである。

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